幻の日本古来からの麻は何処へ?違いは原料の種類にあった!
こんにちは、菜々小町です。
麻といえば、シャリ感があって、どちらかといえば夏向きな素材……そんな印象をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
お洋服や寝具に使われている生地に麻が用いられていたり、コーヒー豆が入った袋なども麻の布が使われていたりしますよね!?
ですが、麻と言っても種類はひとつではないですし、原料となるものに違いがあります。
しかも、日本古来から人々の生活に取り入れられてきた日本の麻は、現在世の中に出回っている麻とは全く違うものだったとしたら……?
麻と言っても種類が違う!? それぞれの原料の違い
「麻」というとリネンと呼ばれるものやラミーと呼ぶもので、シャツや寝具などに使われている布が浮かびます。
あるいは、ジュートといってコーヒーの入った袋や野菜を保管しておく袋などが思い出されたりしないでしょうか?
それらは全て同じ繊維からできているのかと思いきや、そうではありませんでした。
ひと口に麻と言っても、種類はひとつではなく、60種類以上の植物原料の総称として使われている言葉なんだそうです。
麻というのは、植物からとれる繊維のことをいうのですが、それぞれに原料となる植物に違いがあるのです。
ここで、その中のいくつかをご紹介しますね。
苧麻(ちょま)・・・イラクサ科で素材名をラミーと呼ぶもの。
亜麻(あま)・・・アマ科でフラックスとかリネンと呼ばれるもの。
ジュート麻・・・シナノキ科でジュートと呼ばれるもの。
マニラ麻・・・バショウ科でマニラ麻と呼ばれるもの。
ケナフ・・・アオイ科でケナフと呼ばれるもの。
大麻・・・アサ科(麻科)で大麻とかヘンプと呼ばれるもの。
ほかにもたくさんの種類があるのですが、この中で、「苧麻(ちょま)」と「亜麻(あま)」の2つだけが、現在、法律では麻として扱われています。
家庭用品品質表示法によって、麻と表示できるのは、今のところ苧麻と亜麻だけということなんです。
そして、日本では苧麻は沖縄や福島、亜麻は北海道が主な産地となっています。
幻の日本古来からの麻とは?
現在、服や小物、アクセサリーなど、麻といわれる繊維で作られた製品は数多く出回っていますが、そのほとんどが「苧麻(ちょま)」や「亜麻(あま)」と呼ばれる植物から出来たものです。
ですが、どちらも日本古来から使われていた麻ではありません。
もともと日本には人々の暮らしを支え、生きていくうえで欠かせないものとして麻がありました。
その麻は、現在、麻と表示されているものとは原料の種類に違いがあるのです。
はるか昔から日本にあって、日本人の生活の中にあった麻は「大麻草」と呼ばれる種類の植物が原料で、麻とはその皮からとれる繊維のことを言いました。
ところが、昭和37年に法律によって大麻草ではない別の種類の植物(苧麻と亜麻)が「麻」となり、大麻草は「指定外繊維」と表示されることになってしまいました。
それにしても、はるか昔って、どのくらい昔なのか?……というと何と縄文時代にまで遡ります。
福井県の鳥浜貝塚から麻が縄として出土しているということですから、縄文時代にはすでに生活の中で人の手によって加工され、活用されていたことになります。
大麻草の皮からとれた麻糸はとても丈夫で、織物にした布は汗をかいても素早く乾く速乾性と吸汗性、雑菌の繁殖を抑える抗菌性、紫外線から肌を守るUVカットや消臭作用があるといいます。
昔の日本では、人々が日常で着る下着や衣類の他、赤ちゃんのオムツ、下駄の鼻緒などに麻が使われていました。
大麻草を原料としてできている日本古来の麻は、シャリ感があっても使い込んでいくうちに繊維が柔らかくなっていきます。
洗濯も洗濯機に入れて、普通の洗濯洗剤で洗っても大丈夫ですし、昔はタライに洗濯板でザブザブ洗っていたことを考えると洗濯法が難しそう……なんてことはないのです。
麻は丈夫で長持ち、しかも、夏は涼しく、冬は暖かいという特徴があります。
丈夫だし、速乾性があるから、洗濯しても早く乾くという点がいいですね。
梅雨時など洗濯物がなかなか乾きづらく、乾燥機がなかった時代には、有り難い繊維だったと思います。
また、麻は神道行事には欠かせないものでもあります。
神社のしめ縄をはじめ、神主の装束、供え物を結ぶ繊維、巫女の髪を結ぶ繊維なども全て大麻草からできた麻が使われています。
水や塩には清めの作用があると言われていますが、水や塩が身体の浄化で、大麻草を原料とした麻には、精神や魂の浄化作用があると言われているようです。
神道で麻が用いられるのには、そんな理由があったんですね。
その他にも蚊帳(かや)や相撲の横綱の綱、お盆の送り火にも麻が使われ、日本人の暮らしのあらゆる場面で麻が活用されています。
現代では大変貴重になっている日本の麻
そんな日本古来から、日本人の生活に密着して人々の暮らしを支えてきた麻ですが、現代では大麻草を原料とする国産の麻は大変貴重なものとなっています。
日本での大麻の産地は主に栃木・群馬・福島・鳥取ということですが、日本国内で栽培された大麻草から麻糸を作り、その麻糸を織り上げてできた日本産の麻の布を手にすることは、現在非常に困難です。
その一番の理由は、大麻草と呼ばれる種類の植物を原料とする麻という繊維が加工に手間がかかり、工業化するには向かないものだからと言われています。
全て手作業で行われ、昔は女性たちが囲炉裏のまわりを囲んでおしゃべりしながら麻糸作りをしたそうです。
井戸の周りを洗濯板を片手に近所の奥さんたちが、おしゃべりしながらお洗濯する井戸端会議のように、当時の女性にとってはごく自然な日常生活の中の一部だったのかもしれませんね。
麻糸作りには、「精麻(せいま)」といわれる大麻草の茎の皮に磨きをかけた繊維を細かく裂いて、縒り(より)をかけていきます。
下の画像が、国産の精麻です ↓
この精麻を手で裂いていくと下の画像のようになります ↓
細かく裂いたら、繊維を水かぬるま湯に入れて、やわらかくします。
その後、濡れたままの状態で縒りをかけ、糸巻きしていきますが、最初から最後まで全て手作業でやり、とても根気のいる作業です。
短時間で大量生産とはいきません。
また、国内で栽培された大麻草と呼ばれる種類の植物を原料とした麻糸作りから機織りまで、全てをできる方が少なくなってしまっている現在、その技術を継承していく人材が必要とされています。
大昔から日本に伝わる大麻草を原料としている国産の麻糸で織り上げられた布は、今では「幻の大麻布」と呼ばれているほど数少ない貴重なものとなっています。
まとめ
現在の日本で、麻と表示されているのは苧麻(ちょま)と亜麻(あま)のみとなっています。
ですが、実は日本古来から日本人の暮らしの中の様々な場面で取り入れられ、永く使われてきた麻は大麻草と呼ばれる植物を原料としていました。
現在、麻と表示されているものとは、元となる植物に違いがあるのです。
大麻草を原料とした麻は、丈夫なだけではなく吸汗性や速乾性があって、紫外線カットや消臭作用、更には夏は涼しく、冬は暖かいという特徴があります。
そんな日本古来から日本人に永く愛されてきた麻ですが、今では入手するのが難しく、貴重なものとなってしまっています。
日本で栽培された大麻草から作られた麻糸で織った国産の麻の布は、市場ではほとんど見ることができない状況です。
国産の麻という繊維の持つ魅力が、これからも多くの人たちに伝えられていくには、その技術を受け継ぐ人材が今、求められているのです。
麻と言ってもその原料となる植物の種類はひとつではなく違いがありますが、国産の大麻草から作られた麻は、速乾・吸汗性、夏涼しく冬は暖かいという特徴があるため、四季があり、湿度が高い日本の風土に合った天然素材と言えるのではないでしょうか?
以上、ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
菜々小町
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